かゆいところはありませんか

行きつけの床屋さん「都合によりしばらくの間お休みします」の紙が貼ったまま1か月。待ってても髪が伸びるのは待ってくれない。

今後のことも考えて床屋を探さなければと、近所を歩くことに。私の理想とする床屋さんはそんなに難易度は高くない。

・個人経営である

・できれば夫婦でやっている

・近所である

・数回通えば覚えてくれて髪の切り方を聞いてこない

大通りを渡った別町名の別番地を一区画、4ストリート６アベニューくらい。最初に見つけたのがもう営業していない床屋さん。不吉な。入り口に「ご自由にどうぞ」と植木がおいてあるから最近営業しなくなったのかもしれない。

佐川急便のトラックとすれちがう。いつもうちにくるあんちゃんで、会釈。きっと宅配ドライバーなら色々どこに何があるか詳しいんだろうな。

で一区画でみつけた床屋が４件。１件廃業で３件が定休日。むうこれは例の悪夢の第三日曜日か今日は！？

自分の区画の同名町名をまた縦に横にジグザグに歩く。美容院１件床屋４件。すべてお休み。こんなに歩くなら3DSで万歩計カウントしておけばよかった。

諦めて食料買い出しして昼飯＆酒飲んで寝て起きて夕方。どーにも髪を切りたい。確か反対側の大通り渡ったとこにチェーンの床屋があったはず。チェーンなら休むことはないだろうと、意を決して行くとなんときっちり休んでやがる！

諦めて、そこの近所の酒屋でも行くか、と足を向けるとなんと営業している床屋発見('Д')。

そこもチェーン系。私の理想とする床屋とは違うが、この際仕方がない。座って待っていると声を掛けられる。

「こちらで先にチケットを買ってください」

うーむ、床屋でチケットとは。カットのみとかひげそりのみとか。オール（カット・ひげそり・洗髪）で1,990円。

「ではこちらへどうぞ」とほどなく席に案内される。やおら店員さん（店員でいいのか）

Ａ＞「オールです」

その他＞「ありがとうございます」

サービスがマニュアル化されている。まあチェーンとはそういうことなんだが。

仮屋崎に似たチーフの人に髪を切られて、ひげそりからケンタロウに似た（帽子だけかもしれん）人にバトンタッチして、チーフはバックレ。

ケンタロウとちょっと会話。あ、チェーンでも私語していいんだ？！チーフがいないからなのか、これは通わないと分からない。

ここのチェーンは休みは月曜日のみで、月２で勉強会があるだの、安い分、人数をこなすだの云々。

「かゆいところはありませんか」

コントや漫画のネタ以外でこうきちんと声掛けされたのは初めてかもしれない。「背中」といってみたいのをこらえる。

私は床屋さんが安売りする必要は全くないと思うんだが。今日近所を歩いただけでもこれだけの床屋さんがあるんだ。それは地産地消であるべきではないか。そして近所の四方山話をするもよし、自分の近況の話をするもよし、マスターの話を聞くもよし。

床屋は数少ないコミュニティであるべきだ。１円でも安い方に流れるのはある意味仕方がないのだろうか。腕も確かで（というか私はこだわらないからうまいへたに）、日々勉強もしている、それは素敵だ。1件の個人事業主の床屋とチェーンの床屋どっちが社会貢献しているのかといわれれば、従業員が多い方だろう。
私も物売りで1円でも安くしないとお客がよそに行くという恐怖はある。それでも床屋は同じ値段で勝負できなかったのだろうか。

高くても、腕がピカ一でなくても、床屋は近所の贔屓の引き倒しでなければ。
何かプライベートな空間が失われてしまった気がする。

張り紙が外れてサインポールが回る日が来るのを待ちわびて、週一で床屋の前を歩く用事を作る。